誰かの日常

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後輩の話

2025年はどんな1年でしたか?「仕事の思い出」を振り返って、Amazonギフトカードをゲット!

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by マイナビ転職
 

2025年の仕事を振り返るとき、いちばん最初に浮かんでくるのは、自分の功績でも、会社の数字でもなく、一人の後輩の顔だ。

 

営業フロアの片隅で、資料を抱えたまま固まっていた、あのぎこちない立ち姿。電話の受話器を持つたび、目に見えて強張っていく肩。帰り際、エレベーターを待つ数十秒の沈黙の中で、ぽつりと漏らされる「今日も全然ダメでした」の苦笑い。あの頃の彼を形作っていた空気を思い出すたび、この一年を象徴する景色は、どうしてもそこから離れてくれない。

彼が営業に配属されたのは、まだ春先のことだ。新卒にしては落ち着いていて、礼儀もきちんとしている。資料の整理も早いし、会議のメモも丁寧。いわゆる「真面目で素直な後輩」という、評価だけ見れば何も問題のない存在だった。けれど、最初の数ヶ月で一緒にいくつか同行したとき、どうしても拭えない違和感があった。

『向いてない、って思ってそうだな』と。

商談の席に座った彼は、最初こそ明るく挨拶をするのに、肝心なところで急に言葉を失う。準備してきたはずの提案書の内容を飛ばしてしまったり、相手の質問に答えようとして話が迷子になったりする。隣でフォローに入るとき、視界の端に映る彼の横顔は、決まって少しだけ青ざめていた。オフィスに戻れば戻ったで、上司からの「次の見込みどう?」という軽い問いかけに、視線を泳がせながら「ぼちぼちです」と曖昧に濁す。その「ぼちぼち」が嘘なのは、誰が見ても明らかだった。

決定的だったのは、真夏の午後だった。
クライアント先からの帰り道、ビル風の抜ける大通りを並んで歩いているとき、いつもより少しだけ歩幅の小さい彼が、唐突に口を開いた。

「自分が話すと、お客さんの顔が固まるんですよね。」

冗談ぽく笑いながら言った言葉だった。でも、その笑い方が、ぜんぜん冗談に聞こえなかった。
信号待ちで立ち止まりながら、横目で彼を見ると、視線は遠くのビルの窓ガラスに向けられていた。そこに映っているのは、きっと、汗で額が少し光った自分の顔と、「今日もやっぱりダメだった」と言い聞かせている心の中の声だ。

会社に戻る途中、コンビニでアイスコーヒーを買って、ビルの裏手にある小さなベンチに座った。紙コップのフタを開ける音だけが妙に大きく響く中で、少し間をおいてから「どの辺から顔が固まる感じする?」と聞いてみた。

「うーん……最初は普通なんですよ。雑談してるうちは笑ってくれてて。でも、こっちが本題に入ろうとすると、急に真顔になるというか。自分でも、『あ、ここから空気変わるな』って分かるんですけど、どうしたらいいか分からなくて。」

彼の言う「空気が変わる場所」は、録音を聞き返せば一発で分かるところだった。
それは、彼が「正解」を取りに行こうとするときだ。

それから少しして、「一回ちゃんと聞かせて」と、会議室をひとつ占領してロールプレイをすることにした。
彼がお客役、自分が営業役、その逆もやりながら、実際のトークをほぼそのまま再現してもらう。最初は「いや、自分なんかの話、聞いてもらっても」と抵抗していたけれど、「うまくできなくていいから、その“うまくできなさ”を見たい」と伝えると、観念したように資料を開いた。

彼の営業トークは、たしかに教科書通りだった。
きちんと名乗り、相手の状況を確認し、こちらのサービスのメリットを順序立てて説明する。質問の切り方も、研修で習った通りの「オープンクエスチョン」「クローズドクエスチョン」をそれなりに使い分けている。言葉だけ切り取れば、何一つ間違ってはいない。

けれど、どこかが、決定的に噛み合っていなかった。

「今のお話をまとめるとですね」と、彼がきちんとまとめに入るとき、声のトーンが半音上がる。その瞬間、視線が相手から資料に落ちる。言葉の選び方が急に「正しく」なりすぎて、そこまでの雑談の延長線上にあった温度が、ストンと途切れてしまう。そのギャップこそが、彼の言う「顔が固まる瞬間」なんだろうなと、隣で見ていて思った。

「今のさ、めちゃくちゃ“いい人”ではあるんだけど、“一緒に仕事したい人”って感じではないんだよね。」

ロールプレイを終えたあと、そんなふうに伝えたとき、彼はちょっとショックを受けたように目を丸くした。
「いい人と、一緒に仕事したい人って、違うんですか?」と返されて、こちらの方が一瞬言葉に詰まる。

「違う、と思う。いい人って、『ちゃんとしてる人』でしょ。で、一緒に仕事したい人って、『自分のことを分かろうとしてくれる人』なんじゃないかな。」

そう言いながら、自分でも「ああ、今それっぽいこと言ったな」と内心で苦笑していた。でも、彼は真剣に頷きながら、ノートを取り出してメモをし始める。「いい人」と「一緒に仕事したい人」。その差が、彼にとって何かのヒントになるなら、それでいい。

それから、毎週一回だけ、十五分から二十分ほどの「振り返りタイム」を作ることにした。大げさなものではなく、その週にあった商談のうち、うまくいかなかったものを一本だけ選んでもらい、その録音を一緒に聞く。
再生ボタンを押すたび、彼の肩がじわじわと固くなっていくのが手に取るように分かる。「これ、やっぱ恥ずかしいですね」と冗談めかして言いながらも、イヤホンのコードを握る手には力が入っていた。

「ここ、今すごく良かったよ。」

商談の途中、相手が少しだけ笑った瞬間があった。
何気ない一言に、先方の緊張がほぐれるのが分かる。その場面での彼のリアクションは、台本にはないものだった。自分の言葉で、自分のタイミングで、素で返せていた。

「え、どこですか?」

巻き戻してもう一度聞かせると、彼は「あー……」と照れくさそうに笑う。
「ここは本当に何も考えてなかったです」「逆にそれが良かったんだと思う」と伝えると、彼はしばらく黙り込んでから、「こういうのを伸ばした方がいいんですかね」とぽつりと呟いた。

「そう。教科書は、困ったときに戻る場所であって、ずっと貼り付いてるところじゃないから。」

そんな話をしながら、彼のノートにはページが増えていった。
「正解を言う」ためのフレーズ集ではなく、「相手が笑った瞬間」「目線が上がった一言」「逆に空気が重くなった質問」といった、自分なりの気付きが箇条書きされていく。綺麗にまとまってはいないけれど、その雑然としたメモこそが、彼自身の営業スタイルを形作るための素材だった。

ちょうどその頃、会社の研修で「傾聴」と「質問」のワークショップが始まった。
グループワークでは、相手の話を遮らずに最後まで聞く練習や、「はい/いいえ」で答えられる質問を投げかける練習をする。ありがちな内容と言えばそれまでだけれど、彼は誰よりも真剣に参加していた。休憩時間になっても席を立たず、資料を見返しながら、小さな声で質問の言い回しを繰り返している姿を何度も目にした。

研修が終わった日の帰り、エレベーターのドアが閉まる直前、彼がぽつりと話しかけてきた。

「今日のワークで、自分、めちゃくちゃ人の話さえぎってたんだなって気づきました。」

「そんなに?」

「相槌を打とうとして、逆に話の流れを切ってた気がします。『なるほどですね』って言ったあとに、すぐこっちの話に持ってってて……。あれ、やられてたら嫌だなって、今日やられ役になってみて初めて思いました。」

そう言って苦笑いする彼の表情は、以前よりも少しだけ、悔しさを前に出せる顔になっていた。
「それに気づけたのは、たぶん今日いちばんの収穫だよ」と返すと、「明日から全部直せるか分からないですけど」と前置きしながらも、「でも、ちょっとやり方変えてみます」と真っ直ぐな目をして言った。

その「ちょっと」が、どれだけ大事かを、彼はまだ知らない。
でも、その「ちょっと」を積み重ねていくことでしか、人は変われないということを、自分は仕事を通して何度か見てきた。

だからこそ、この年の自分の仕事の思い出は、どうしても彼の歩幅と一緒に語りたくなるのだと思う。
自分の数字や評価の陰で、誰かが少しずつ、でも確かに変わっていく。その過程を隣で見守れたことが、2025年という年を、単なる「忙しかった一年」ではなく、少しだけ特別な事象として覚えておける理由になっているのだと思う。

 

秋が深まり始めたころ、フロアの空気は少しだけ落ち着きを取り戻していた。決算期の慌ただしさもひと段落して、窓の外の街路樹が、ようやく色づいていく余裕を思い出したみたいに、少しずつ赤や黄色を混ぜ始めていた。そんな季節の変わり目と歩調を合わせるようにして、彼の営業も、目に見えないところでゆっくり形を変え始めていた。

最初に気づいたのは、報告の言葉の温度だった。
夏のあいだ、彼の口から出てくるのは「すみません」「全然ダメでした」「また断られました」みたいな、結果だけを切り取った短いフレーズばかりだった。途中経過も、手応えも、感触も抜け落ちて、最後の「×」だけを掲げて戻ってくる。まるでテストの答案用紙を、点数だけ見てぐしゃぐしゃに丸めてしまうみたいに。

それが、九月も半ばを過ぎたあたりから、少しずつ変わっていった。
「ダメでした」の前に、ひと呼吸置くようになったのだ。

「今日の商談、結果としてはダメでした。……でも、途中まではちゃんと話を聞いてもらえた気がします。」

最初にそう聞いたとき、こちらは一瞬きょとんとしてしまった。
「途中までは」という前置きなんて、それまでは一度も聞いたことがなかったからだ。詳しく話を聞いてみると、相手の表情がどこで変わって、どんな質問が出て、どのタイミングで空気が重くなったのかを、自分の言葉で説明し始めた。

「ここまでは、相手の方が結構しゃべってくれてたんですよ。でも、『うちのサービスだと〜』って切り替えた瞬間に、急に視線が外れて……。あ、またやっちゃったなって、そのとき思いました。」

以前なら、きっとその瞬間を「やっちゃったな」で終わらせていたはずだ。
けれど今の彼は、その「やっちゃったな」をそのままにしない。録音を聞き返し、ノートに残し、翌週の振り返りの場に持ってくる。言葉にできないザラつきの正体を、どうにかして掴もうとするみたいに。

ある日、彼が自分から会議室のドアをノックしてきた。
「今週、ちょっと相談したい案件があるんですけど」と言う声は、前よりも少しだけ、悔しさと期待が混じった色をしていた。

その商談は、同業他社とのコンペだった。
先方はサービスの比較がしたいだけで、こちらとしては「価格と機能で負けたら仕方ない」という、ある意味では逃げ道の用意された案件だ。そういう場面で、これまでの彼なら、きっと教科書通りの比較表を並べて、予定調和のまま終わっていっただろう。

「今回は、ちゃんと聞けた気がしたんですよね。」

彼はそう切り出した。
先方の担当者が、最初に口にした愚痴のような一言――「最近、社内の問い合わせ対応が増えちゃって、手が回らないんですよ」というぼやきを、ただ聞き流さずに、そこから話を広げたのだという。

「それって、どんな問い合わせが多いんですか?とりあえず全部担当者に飛んできちゃう感じですか?」

それは、研修で習ったとおりの「深掘り質問」ではある。けれど、その場面でそれを選べたのは、台本をなぞったからではなく、「この人は何に困っているんだろう」という好奇心が、ほんの少しだけ恐怖に勝ったからだろう。
録音越しに聞く彼の声は、いつもよりわずかに低く、落ち着いていた。

「途中までは、本当に手応えがあったんです。相手の方も、どんどん自分から話してくれて。『そうそう、そこなんですよ』って言ってくれて。」

「でも?」と促すと、彼は苦笑いしながら首をかしげた。

「でも、最後の最後で価格の話になったとき、自分、また守りに入っちゃって。『競合さんよりは高いですけど、その分〜』って、急にマニュアルみたいな説明を始めちゃって。あの瞬間、空気が切り替わったのが分かりました。」

録音の中で、たしかに空気は変わっていた。
それまで会話のキャッチボールをしていたのに、急に彼だけがボールを投げ続けて、相手は受け取りも投げ返しもしなくなる。沈黙が増え、相槌の「はい」の音程が一段低くなる。
秋風が窓ガラスを叩いているのに気づきながらも、こちらの胸の奥に吹き込んでくるのは、彼の「あと一歩届かなかった」という悔しさだった。

「でもさ」と言葉を選びながら告げる。

「今回の負け方は、前までの負け方とは違うよ。」

彼は不思議そうにこちらを見る。
そこで、あの日コンビニ前のベンチで話したことを、少し言い換えて返した。

「前は、“戦場に立ててない”感じだった。もう勝負の土俵に上がる前に、自分で『どうせ勝てない』って決めちゃってた。でも今回はさ、ちゃんと殴り合いした上で、最後の一発で負けた負け方だと思う。」

「それって、褒めてます?」

「めちゃくちゃ褒めてる。」

肩透かしを食らったような顔をしながらも、彼の口元には、わずかながら笑みが浮かんでいた。
なんでもない会議室の蛍光灯が、そのときだけ少し柔らかい光に見えたのは、きっと気のせいではない。

そして、変化が「結果」として現れたのは、そのほんの数週間後だった。

十一月に入って、街のイルミネーションが少しずつ準備を始める頃。
昼下がり、フロアのざわめきに紛れるようにして鳴った内線電話を、彼が取った。相手の名乗りを聞いた瞬間、彼の表情がわずかに強張る。以前に何度か訪問したことのある、あのコンペ案件の担当者だった。

「はい、いつもお世話になっております。……はい、以前提案させていただいた件ですよね。」

彼の声が、いつもより半音ほど低くなった。その背中を見ながら、こちらも知らず知らずのうちに呼吸を浅くする。
周りのキーボードの音が、やけに耳につく。時計の針が進む音まで聞こえてきそうな気がした。

「えっと……本当ですか?」

次の瞬間、彼の声がほんの少しだけ裏返った。
慌てて咳払いをして、トーンを戻そうとする気配が伝わってくる。しばらく相手の言葉を聞いたあと、「ありがとうございます。精一杯やらせていただきます」と、いつもよりずっとはっきりした声で言って受話器を置いた。

こちらが何も言わないうちに、彼がくるりと振り向く。
顔には、どうにか抑え込もうとしても隠しきれない喜びと、まだ信じきれていない戸惑いが入り混じっていた。

「……決まりました。さっきのコンペのところ、うちに決めてくれました。」

言葉にした瞬間、彼自身が一番驚いたように笑った。
それは静かな笑いだったけれど、胸の奥で何かが弾ける音がした気がした。心の中で、誰に見られるでもないガッツポーズをひとつつく。その手応えは、案外悪くなかった。

後で聞いた話では、決め手になったのは、最後の訪問でのやり取りだったらしい。
価格や機能ではなく、「社内の問い合わせをどう減らしていくか」という話題に、彼がしつこいくらい付き合ったこと。相手の愚痴に耳を傾け、具体的な運用のイメージを一緒に描いたこと。
担当者はこう言ってくれたという。

「どこもサービスは似てたけど、一番うちの面倒を見てくれそうなのが、あなたのところだと思いました。」

それはつまり、「いい人」から「一緒に仕事をしたい人」に、ようやく少しだけ足を踏み出せたということだ。
コンビニ前のベンチで、彼が自分の営業を「お客さんの顔が固まるやつ」とだけ認識していたころからすれば、考えられないほどの変化だった。

けれど、不思議なことに、その初受注の喜びには、どこかうっすらとした喪失感がつきまとっていた。
彼が一つの「できた」を手に入れた瞬間、自分の中で何かが静かに終わってしまったような感覚があったのだ。

あの夏の日、彼の背中は、どこか頼りなくて、見ているこちらが手を伸ばさずにはいられなかった。
間違えるたび、うまくいかないたびに、会議室のホワイトボードに雑な図を描いて、一緒に出口を探していた時間。コンビニの紙コップを握りながら、他愛もない失敗談を並べて、どうにか彼の心の重さを軽くしようとしていた日々。

そのすべてが、初受注の「おめでとうございます」の一言に押し流されて、遠くの方へと流されていく気がした。
嬉しさと寂しさが同じ器に注がれて、どちらがどちらなのか分からなくなる。三割の喜びと、七割の安堵と、少しの喪失。混ぜれば混ぜるほど色の名前が分からなくなるその感情を、どう扱えばいいのか分からなかった。

「ありがとうございます。hokuさんにいろいろ聞いてもらえたおかげです。」

彼はそう言って頭を下げたけれど、それはたぶん半分正しくて、半分は違う。
こちらはただ、彼の隣に座っていただけだ。
本当に苦しかった場所、本当に怖かった瞬間は、結局いつだって彼一人のものだった。電話をかける前の深呼吸も、断られた直後の沈黙も、録音を再生する前の躊躇も、そのほとんどは誰にも見られないところで消えていった。

初受注が決まったその日、帰りのエレベーターで、彼は珍しく自分から未来の話をした。

「まだ全然、自信がついたわけじゃないですけど……。でも、あの案件が決まったってことは、自分が話したことにも、少しは意味があったのかなって思えてきました。」

「意味はあったよ」と答えると、彼は少しうつむいて笑った。

「なんか、こうやって少しずつできることが増えてくと、そのぶん“言い訳できなくなる”感じがしますね。」

その言葉を聞いた瞬間、胸のどこかがきゅっと縮むのを感じた。
できないうちは、環境のせいにも、向き不向きのせいにもできる。
でも、できるようになってしまったことは、自分の責任として引き受けるしかない。成長って、そういうふうにして、居心地のいい逃げ場を一つずつ奪っていくものなのかもしれない。

エレベーターの扉が開くと、ビルの外には、すでに冬の匂いが漂い始めていた。
街路樹の葉はほとんど落ちて、裸になった枝先が、灰色の空を細かく切り分けている。その景色を見ながら、ふと思う。
この一年で失ったものと、手に入れたもの。彼にとって、その天秤はどちらに傾いているのだろう、と。

少なくとも、自分にとってははっきりしている。
もし彼が変わらないままだったら、この秋はただ仕事に追われて過ぎていく、どこにでもある季節のひとつでしかなかったはずだ。
けれど今は、街のイルミネーションを見るたびに、あの内線電話の音と、彼の少し裏返った「本当ですか?」という声を思い出す。
そうやって誰かの成長に自分の一年を紐づけてしまった時点で、もうこの年は、元には戻らない。

それがうれしいのか、さみしいのか、まだうまく言葉にできないまま。
それでも、あの日の初受注の瞬間が、2025年の仕事の記憶の中で、いちばん鮮やかに光っていることだけは、認めざるを得なかった。